子どもに通用しない浅知恵
『いつもいっしょ』
(ケビン・ヘンクス作、金原瑞人約、あすなろ書房)
という絵本があります。
大人の方にこそ読んでいただきたい絵本です。
子どものときに読んだという方も
大人になって読み返してみると
また違った発見があると思います。
あらすじは・・
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主人公はオーエンという名前の
ネズミの男の子。
彼はフワフワーノという黄色いタオルを
いつも持っていました。
タオルは食べこぼしなどで汚れっぱなしなので
そんなものをいつも持たせているのは恥ずかしい
とお父さんお母さんはなんとかして
そのフワフワーノを取り上げようとします。
それでもオーエンは一生懸命考えて
取り上げられないように親の裏をかきます。
そんな攻防を繰り返しているうちに
お母さんははたと思いつきました。
取り上げるのではなく
持っていてもおかしくないよう
そのフワフワーノに工夫してみようと。
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子どもの気持ちをくんだうえで問題解決を図るという
とてもいいお話だと思います。
タオルに限らず、ぬいぐるみであったり
おもちゃであったり、
それさえあれば安心できるというものが
子どもにはあるものです。
この絵本のおもしろさは、
フワフワーノを離させようとする
お父さんとお母さんの苦労が
ことごとくオーエンにうち砕かれるところです。
子どもは大人の行動を完全に見透かしているわけです。
ポイントのずれた大人の考えは
子どもには通用しないと
痛感させられるお話です。
最終的には
オーエンとフワフワーノがいつもいっしょにいられるよう
お母さんがある工夫をします。
持たせないようにするという考えを改め
逆にいつも持っていられるように
小さくしてハンカチにするのです。
子どもの大切なものを取り上げるのではなくて
子どもの気持ちに寄り添っていくことが大切だと
お母さんは気づいたのでしょう。
私がこの絵本を読んで一番感じるのは
子育ては子どもを変えるのではなくて
親が自らの視点を変えることが大事だということです。
そのことをわかりやすく教えてくれる絵本だと思います。
この絵本を読んでいて
ひとつ思い出したことがあります。
ラインホルド・ニーバーという
アメリカの神学者の『祈り』という詩です。
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神よ 変えることのできるものについて、
それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。
変えることのできないものについては、
それを受けいれるだけの冷静さを与えたまえ。
そして、変えることのできるものと、
変えることのできないものとを、
識別する知恵を与えたまえ。
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オーエンのお母さんはまさに『知恵』を出して、
子どもを自立に向かわせているのだと思いました。
親からすれば、有無をいわさず取り上げるのが一番簡単ですが
それでは子どもの気持ちをくむことにはなりません。
子どもの気持ちに寄り添いながら
一番良い解決法を見つけていくこと
子育てというのは
だからこそ想像し、創造する営みであり、
画一的な答えなどないのだと思います。
山村 達夫
宇都宮市在住。
まこと幼稚園理事長・園長
社会福祉法人藹藹会理事長
福島学院大学福祉心理学部非常勤講師。
教育と福祉を基盤に、実践に裏付けされた臨床的教育研究を行っている。また、障がい者施設・保育園の運営に携わっている。主な著書に、絵本「フィリーがドキドキした夜のこと」(随想舎)、「0歳からのことば育てと子どもの自立」(共著:合同出版)など。近年はFM栃木“RADIOBERRY”「まことーく!」「今日も“わきあいあい”」、CRT栃木放送「HAPPYLOOPはここから」にも出演。多岐にわたり活躍中。
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